漢方ブログ
第80話 炙甘草湯と半夏厚朴湯の鑑別が胃の症状の違いだけではない
2012.10.20
私はホノミ漢方創設の高橋良忠先生のお人柄、ならびにその業績を非常に評価し、また尊敬している一人です。さて、この二処方の違いについての話であるが、そもそも、炙甘草湯は臓腑でいうなら、心・肺であり、虚実でいうなら気陰の両虚証であり、補剤である。他方、半夏厚朴湯は臓腑でいうなら、肝・肺・胃であり、肝気鬱による肺・胃の宣降失調失調に用い、痰・気の邪実を取り除く袪邪の処方である。胸が苦しいといっても、症状だけを診るだけではなく、その起こす原因である本をみなければなりません。また、炙甘草湯を用いる人に胃の悪い人はいないのでしょうか?そんなことはありません。胃のことと、心・肺のことは別のことですから、炙甘草湯を使わなければ治らない人には炙甘草湯を使う必要があります。つまり、胃の症状があるからといって、半夏厚朴湯にはなりませんし、そこは炙甘草湯に胃の薬を併用すればいいのです。高橋良忠先生は、薬系漢方を創設するのに、先生ご自身が虚証であり、また薬を慎重に用いて、副作用が出ないように工夫をした方でした。ですから、炙甘草湯や八味丸などの地黄が入っている処方は、胃の弱い人にもたれやすいという配慮から、胃の苦情のある人には、選薬されないような工夫を施したのだと思います。ただ、地黄はすべての胃の症状のある方に使えないかというと、そうではありません。胃陰虚の人に用いることができ、八味丸で胃の症状が良くなるのも、それを現わしています。また、余分なことですが、汗かきも虚実がありますが、万一、この炙甘草湯と半夏厚朴湯を袪邪か補虚かで分けているのだとするならば、一方は補虚であり、一方は袪実であり、そもそも同じ土俵で論じることに無理があります。